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大阪地方裁判所 平成7年(行ウ)19号 判決 1997年10月29日

原告

株式会社誠光社

右代表者代表取締役

徳中三春

右訴訟代理人弁護士

曽我乙彦

中澤洋央兒

安元義博

被告

大阪府地方労働委員会

右代表者会長

由良数馬

右訴訟代理人弁護士

川合孝郎

右指定代理人

野口敬司

外三名

被告補助参加人

総評全国一般大阪地運

誠光社労働組合

右代表者執行委員長

水迫隆宏

右訴訟代理人弁護士

丸山哲男

井上英昭

主文

一  被告が大阪府地方労働委員会平成六年(不)第三三号、同第四三号不当労働行為救済申立併合事件について、平成七年二月二三日付けでなした命令のうち、主文第1項のうち原告を名宛人とする部分及び主文第2項のうち(1)に関する部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用(補助参加により生じた訴訟費用を含む。)はこれを四分し、その一を原告の、その余を被告及び補助参加人の負担とする。

理由

第一  認定される事実

一  請求原因1の事実については当事者間に争いがなく、抗弁以下の事実中の当事者間に争いのない事実、成立に争いのない乙第一号証、第八ないし第一二号証、丙第六ないし第一五号証、第一七号証、第一九号証、第二一号証、第二三号証、第二五ないし第二八号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一ないし第四号証(いずれも一部)、乙第一七ないし第二〇号証、第二三ないし第二五号証、第二七号証、第三八号証、第四〇号証、第四二号証、第四七号証、第四九号証、第五五ないし第五八号証、第六一号証、第六四号証、第七〇号証、丙第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二、第三号証、丙第一六号証、第二〇号証、第二二号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる乙第一六号証、第二一、第二二号証、第二六号証、第二八ないし第三六号証、第三九号証、第四一号証、第四六号証、第五〇、第五一号証、第五四号証、第六二、第六三号証、証人水迫隆宏(以下「水迫」という。)の証言により原本の存在及び成立が認められる乙第一四、第一五号証、第二九号証、第六八号証、丙第三ないし第五号証、証人水迫の証言により真正に成立したものと認められる丙第一号証、証人水迫の証言に、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  本件破産申立に至る経緯

(一) 徳中は、昭和四二年、個人で写真製版業を始めたが、法人成りにより、原告が、昭和四九年八月二〇日に設立された。そして、昭和五八年七月一〇日、当時の原告従業員三五名中一六名により、補助参加人組合が結成され、その執行委員長に水迫が就任した。

補助参加人組合は、同月一九日、原告での朝礼の後、上部団体役員一名とともに、原告代表者である徳中に対し、労働組合結成通知を行い、併せて労働条件に関する要求書を交付した。徳中は、補助参加人組合に対し、右要求事項について質問をしたのち、「組合員の賃金、労働条件の変更をはじめ配転、解雇などについては組合と事前協議し、双方納得のうえで行う。」旨を含む事項について会社として了解し、さらに、同月二一日、団体交渉を開催することに同意して、その旨の議事録確認書に補助参加人組合とともに署名捺印した。

(二) 原告は、補助参加人組合結成後、同組合と団体交渉を行い、昭和五八年七月二一日及び同年八月一八日にそれぞれ労働協約を締結したが、他方で、東大阪自動車教習所で労務対策部長をしていた島村を、原告での労務担当の非常勤職員として採用した(顧問料月額約二〇万円)。

そして、原告会社内では、徳中の関与のもと、昭和六〇年一二月四日、「翔の会」と称する従業員親睦団体が結成され、原告の管理職を含む従業員が発起人となったが、右「翔の会」は、補助参加人組合員については参加を認めないという姿勢をとったため、補助参加人組合からの反発を招き、結局、「翔の会」は、昭和六一年七月ころ、解散することとなった。

(三) 原告は、昭和六二年七月ころ、島村を解任した後、同年一一月、代わって大沢を労務担当顧問として採用し(顧問料月額約二〇万円)、同人の協力を得て就業規則の改正を検討した結果、平成元年一月二〇日、従業員に対し、罰則規定を新設した就業規則改正案を発表し、これについての意見を求めた。しかし、補助参加人組合は、右就業規則の改正は労働条件の変更についての事前協議に関する議事録確認に反するとしてこれに反発し、原告が同年二月二五日、突如として就業規則改正についての従業員代表を選出する選挙を実施した際には、当時の執行委員長である大黒が立候補し、全従業員の選挙で右大黒が従業員代表に選出された。

この結果、原告と補助参加人組合との間で就業規則変更を巡る団体交渉が開催され、その中で、同年三月二二日、両者の間で、労使間の協定書、議事録などは今後とも遵守すること及び就業規則の変更に際しては補助参加人組合と事前に協議することについて書面での確認がなされ、就業規則の変更は実施されなかった。

また、原告の従業員のうち、補助参加人組合の結成時からの組合員(八名)を除く従業員の中に、主任でないにもかかわらず主任手当の支給を昭和六〇年ころから受けている者がいることが判明したため、補助参加人組合は、平成三年四月から、団体交渉の場において原告にその是正を求めた結果、原告は、右手当の支給を組合差別と認め、補助参加人組合との間で、同年八月一三日、右差別賃金の是正と、補助参加人組合への解決金(三二〇万円)を支払い、かつ、今後賃金における組合員差別は行わない旨を確認する労働協約を締結した。

なお、大沢は、平成三年九月五日、原告を退職した。

(四) 原告は、平成三年八月三〇日、中小労働組合友愛会議の顧問で、もと関西日本電気労働組合の委員長であった嶋澤を労務対策顧問として、同年一〇月二〇日ころ、同人の紹介で、もと関西日本電気労働組合書記長を務めた近藤を原告の労務部長として、同年一一月一日ころ、もと高槻電器労働組合の委員長を務めていた久保を原告の従業員として、それぞれ採用し、嶋澤には顧問料として月額一八万円ないし二〇万円を、近藤と久保には給与として各月額約五〇万円を支払うこととなった。

そして、原告は、平成四年二月一四日、再度就業規則及び賃金規定の変更案を発表し、同月二二日には説明会を開催したが、補助参加人組合がこれに反対したため、結局、同年五月一八日、労使間で再度、「今後とも労使間の協定書、確認書、議事録確認書等を誠実に履行し、過去の合意事項、慣行等を尊重する。」との条項を含む確認がなされた。

また、原告は、平成四年一一月、従前組合員を含む従業員に支給されてきた家族手当のうち、子が一八歳以上である場合及び共働きの配偶者に一定額以上の収入がある場合にはこれを支給しない扱いとしたところ、補助参加人組合は、これに反対したばかりでなく、補助参加人組合員以外の従業員に対して労使協定外の賞与の支払がある点を組合員差別として追及した結果、原告は、補助参加人組合との間で、平成五年三月八日、就労している子又は二三歳以上の子がある場合を除くほか家族手当を従前通り支給し、また、賞与差別については補助参加人組合に対して一五〇万円の解決金を支払うことを認めた。

(五) ところで、嶋澤は、原告の労務対策顧問として、かねてより原告の費用で原告の管理職従業員らに労務対策研修を行うなどしていたが、平成四年一二月ころには、補助参加人組合を原告会社内での少数派とする工作の一環として、第二組合の結成について具体的な検討を行うようになり、その結果、平成五年四月一一日、久保を委員長として誠光ユニオンが結成され、近藤と久保は、同月一五日、富永を含む原告の新入社員五名に対し、補助参加人組合を闘争至上主義として批判するとともに、誠光ユニオンへの加入を慫慂した。その結果、右五名は誠光ユニオンに加入することとなり、富永は、同年六月、誠光ユニオンの青年部長に就任した。

さらに、原告は、同年七年一四日、誠光ユニオンとの団体交渉の後、同組合幹部を淀川会館で饗応したほか、同年八月一二日から同月一三日までの間、滋賀県の旅館「船岩」に嶋澤を招いて、原告管理職(近藤を含む。)に久保を加えたメンバーで管理職研修を行い、主として労務問題について検討を加えた。

ところで、富永が、同年一一月一七日、久保に対し、誠光ユニオンからの脱退を申し出たところ、原告代表者の徳中は、翌一八日、富永に対し、スキャナー課から工務課に配置転換する旨を命じた。しかし、富永がこの件を補助参加人組合に相談し、同組合に加入したため、補助参加人組合は右配置転換命令に抗議し、結局、原告は、同月二二日、同配置転換命令を撤回した。

さらに、徳中は、スキャナー課オペレーター係で補助参加人組合執行委員である大河に対し、平成六年一月一三日、仕事上のミスがあったとして叱責したところ、大河が右ミスが自分の落ち度によるものかどうかわからない旨返答したことに立腹し、即時、大河に対してスキャナー課準備係に配置転換する旨を口頭で命じ、翌日には同人に対して残業を禁止する旨言い渡して、以後、大河が担当していた業務を、徳中が実質的に経営している南州プロセス等の下請け企業に外注に出すこととした。

(六) 原告は、平成二年八月一日から平成三年七月三一日まで(第一六期)の間に、七億六五六〇万六〇〇〇円の売上高を記録して、四六六二万九三六七円の利益を計上したが、以後、景気の悪化と競争の激化のために売上高は減少の一途をたどり、しかも、平成四年四月ころには新しい印刷機器をリースで導入したほか、新入従業員採用等による人件費増加、使途不明金の増加、補助参加人組合に対する前記解決金や嶋澤に対する顧問料等労務対策費などが収支を圧迫したため、平成三年八月一日から平成四年七月三一日まで(第一七期)の間には二五〇四万三四二〇円、平成四年八月一日から平成五年七月三一日まで(第一八期)の間には一二一一万七八四一円の利益を計上するにとどまるなど、その収益は減少を続け、社会保険料も滞納するようになっていった。

そこで、原告代表者の徳中は、平成六年度の春闘前である平成六年二月二二日、全従業員が参加した朝礼の場で、「非常事態宣言」と題する書面を交付し、売上高の減少と人件費の増加により原告の経営が危機に瀕していること、そのために売上上昇、コストダウン、賃上げの凍結、賞与の不支給、人員削減等につき全従業員に協力を求めることを訴えかけた。なお、右「非常事態宣言」と題する書面には、「従いましてまことに一方的ではありますがこの「非常事態宣言」を従業員各位にはその主旨についてはご了承いただく他ないのでありまして、不承知の方は残念ながら当社にお止まりいただくわけには参りません。」との記載がなされていた。

しかし、原告は、他方で、誠光ユニオンの副委員長二名を含む同組合員三名を、同日付けで手当の支給される主任に昇進させ、補助参加人組合員の多いレタッチ課を除く各部署に配置するという措置を採った。

なお、誠光ユニオンは、ゼンセン同盟に加入を申請していたところ、同月二八日の機関誌で、右ゼンセン同盟への加入と、原告の「非常事態宣言」への全面的協力を呼びかけた。

(七) しかし、補助参加人組合は、右「非常事態宣言」と題する書面記載の人件費等の数字に疑問を抱き、また、大河に対する前記平成六年一月一三日付け配置転換命令にも承服していなかったことから、原告に対し、同年二月二五日、各人一律三万円の賃金引き上げ、レタッチ部門への二名の人員補充、接待交際費の半減、誠光ユニオンの解散等を内容とする春闘要求書を提出し、また、大河に対する配置転換命令及び残業禁止の指示について質問状を提出した。

これに対して、原告は、大河に対し、同年三月一八日、レタッチ課への配置転換を命じたが、補助参加人組合の抗議により、同月二九日、配置転換を留保する旨明らかにしたものの、徳中は、同月三〇日、大河に対して仕事をするなと命じ、翌日の朝礼ではこれを全従業員に対して宣言したことから、補助参加人組合は、同年四月七日、大河に対する同年一月一三日付けの配置転換命令の撤回等を求めて、被告に対し、初めて救済命令の申立を行った(大阪府地方労働委員会平成六年(不)第一六号不当労働行為救済申立事件)。

補助参加人組合は、賃上げ等について原告と団体交渉を重ねる過程で、嶋澤に対する顧問料の支払や、外注先である南州プロセスと原告との関係が不明朗である点について追及をしたが、誠光ユニオンの組合員のうちには、原告を退職する者が相次ぎ、誠光ユニオンの組合員は「非常事態宣言」当時の二一名から本件破産申立に至るまでに、一五名にまで減少し、一七名の組合員を擁する補助参加人組合の組合員数を下回るに至った。

(八) このような中で、原告代表者である徳中は、収益の悪化、労使関係の悪化及び退職者の続出などから原告を経営する意欲を喪失し、同年五月七日、嶋澤、近藤及び坂口一美営業部長と協議のうえ、同月九日、大手の取引先であるコロナクリエイトに赴き、経営に自信を失ったので、今後の同社との取引を断る旨申し出た。コロナクリエイトは、翌日改めて徳中の意思を確認したが、右徳中の決意が固いことから、結局、原告との取引を止めることとした。

しかし、徳中は、同月一三日の団体交渉では、南州プロセスについては自己が実質的に経営権を握っていることを自認する一方、補助参加人組合に対し、コロナクリエイトから取引を断られた旨説明し、併せて、次回の団体交渉は同月二六日まで開催できない旨申し渡した。

徳中は、同月一八日、曽我乙彦弁護士(以下「曽我弁護士」という。)のもとへ赴き、原告の破産申立について協議し、その結果、原告は、右曽我弁護士らを代理人として、同月二五日、大阪地方裁判所に対し、負債二億三〇〇〇万円、資産八二三〇万円で債務超過の状態にあり支払不能であるとして、本件破産申立をした(大阪地方裁判所平成六年(フ)第一二五〇号破産宣告申立事件)。

(九) なお、原告の、本件破産申立当時の財務状況は、継続企業を前提とした企業会計処理基準によって作成した財務諸表によれば、本件破産申立をした平成六年五月二五日現在で債務超過の状態には至っていなかったが、同日現在の非常貸借対照表によれば、資産二億〇九九三万三九三六円、負債三億一二〇四万三一九二円で、正味資本はマイナス一億〇二一〇万九二五六円の債務超過の状態にあった。

2  本件破産申立後の経過

(一) 徳中は、本件破産申立をした日の翌日である平成六年五月二六日朝、原告の全従業員を集めた朝礼で、初めて本件破産申立の件を発表した。

補助参加人組合は、同日午後から原告と継続的に団体交渉を行い、決算報告書をもとに税理士に意見を求めたり、コロナクリエイトにも事情聴取を行うなどしたうえで、破産原因は存在せず、本件破産申立は補助参加人組合を潰すことを目的としたものであると主張して、本件破産申立の取下げと企業の再開を強く求める一方、被告に対し、同月二七日、本件破産申立は事前協議の確認に反し、補助参加人組合の破壊を唯一の目的とした不当労働行為であるとして救済申立を行った(大阪府地方労働委員会平成六年(不)第三三号不当労働行為救済申立事件)。また、補助参加人組合は、破産裁判所である大阪地方裁判所に対しても、原告に破産原因が存在しないことを主張した。

(二) 大阪地方裁判所は、平成六年六月七日、破産申立手続の第二回審尋期日において、鑑定人を選任して破産原因の調査をすることとした。

(三) 徳中ら原告管理職は、前日の団体交渉で平成六年六月一〇日に開催が予定されていた団体交渉に出席せず(本件団交拒否)に行方をくらまし、さらに、同月一五日ころ、代理人である曽我弁護士を通じて、補助参加人組合員を含む全従業員に対し、本件破産申立のため事業を継続できなくなったとして同月二〇日をもって解雇する旨の解雇通知書を発送して、本件解雇をした。

本件解雇について、補助参加人組合員以外の原告従業員は、いずれもこれを了承したが、補助参加人組合は、同月二〇日及び同月二三日の二回にわたり、本件破産申立の取下げや本件解雇の撤回を求めて、原告代理人の曽我弁護士を通じて、原告に対し、団体交渉開催を求めた。しかし、原告は、右団体交渉開催要求に応じなかった(本件団交不応諾)。

そこで、補助参加人組合は、被告に対し、同年七月一四日、本件解雇及び本件団交拒否等が不当労働行為に該当するとして救済申立を行った(大阪府地方労働委員会平成六年(不)第四三号不当労働行為救済申立事件)。

(四) 大阪地方裁判所は、原告が債務超過の状態にあるとの鑑定結果を受けて、原告に対し、平成六年八月四日午後三時、本件破産宣告をし、併せて破産管財人として松葉知幸弁護士(以下「松葉管財人」という。)を選任した。そして、右松葉管財人は、同月八日、補助参加人組合員に対して改めて解雇通知を行い、補助参加人組合員もこれを了承した。

また、被告は、前記平成六年(不)第三三号及び同第四三号の各不当労働行為救済申立事件を併合して審理を行う一方、両事件の被申立人として松葉管財人を加えた上で、原告及び松葉管財人に対し、平成七年二月二三日、次の主文からなる本件救済命令を発令した。

主文

1  原告及び松葉管財人は、原告により、平成六年六月二〇日付けで補助参加人組合員に対してなされた解雇がなかたものとして取り扱い、同日以降、同年八月八日までの間、補助参加人組合員が受けるはずであった賃金相当額及びこれに年率五分を乗じた額を支払わなければならない。

2  原告は、補助参加人組合に対して下記の文書を速やかに手交しなければならない。

年 月 日

総評全国一般大阪地連誠光社労働組合

執行委員長水迫隆宏殿

株式会社誠光社

代表取締役 徳中三春

当社が行った下記の行為は、大阪府地方労働委員会において、労働組合法第七条第一号、第二号及び第三号に該当する不当労働行為であると認められましたので陳謝いたします。

(1) 貴組合との事前協議を経ることなく、平成六年五月二五日、大阪地方裁判所に対して破産の申立てを行い、かつ、同年六月二〇日をもって貴組合員全員を解雇したこと

(2) 平成六年六月一〇日、貴組合との団体交渉を一方的に拒否し、さらに貴組合からの同月二〇日付け及び同月二三日付け団体交渉要求に応じなかったこと

(五) なお、原告は、本件訴訟の口頭弁論終結時点において、本件破産宣告による清算手続中であって、いまだ破産終結に至っていない。

徳中は、現在、個人で運送業を営んでいる。

以上の事実が認められる。

二  原告の主張について

1  徳中の軟禁等について

(一) 原告は、補助参加人組合の結成当初から、徳中を軟禁して署名を強制するなど、補助参加人組合が対立的労使関係を基本路線として採っていた旨を主張し、甲第一号証にはこれに沿う部分がある。

(二) しかしながら、補助参加人が組合結成の通告を行った際に提出した要求書(前掲乙第一五号証)の具体的内容、右要求内容はその後の団体交渉で解決を見たこと、問題とされる議事録確認書(前掲乙第一七号証)の体裁、その後も右議事録確認書は再確認(前掲乙第二三号証、同第二七号証)を受けており、右組合結成の通告のなされた昭和五八年七月一九日以来曲がりなりにも労使関係が継続してきたこと、原告は補助参加人組合結成後、相次いで労務対策顧問等を採用してきたこと、前掲乙第八号証及び証人水迫の証言を総合するとき、むしろ、補助参加人組合結成当初は、原告との労使関係は比較的安定していたものと認められ、他に、補助参加人組合が相当性を逸脱するような対立的労使関係を採用したと認めるに足りる的確な証拠はないから、結局、右甲第一号証の原告代表者徳中の供述は不自然であって信用することができず、原告の右主張は採用できない。

2  「翔の会」について

(一) 原告は、「翔の会」結成への関与を否認し、むしろ、補助参加人組合がその会費を管理するなどと言い始めた旨主張し、甲第一、第二号証、第四号証にはこれに沿うかの部分がある。

(二) しかしながら、前掲乙第二一、同第二二号証の記載内容、その後右「翔の会」が短期間で解散されたこと、原告が後に誠光ユニオンという形で補助参加人組合に対抗する組織を形成しようとしたこと、前掲乙第八号証及び証人水迫の証言を総合するとき、原告は、補助参加人組合員を排除する形での「翔の会」結成に関与していたと認めることができ、原告主張に沿うかの右各証拠は信用することができず、したがって、原告の右主張は採用できない。

3  平成元年一月二〇日の就業規則変更について

原告は、平成元年一月二〇日の就業規則変更の発表後、補助参加人組合が連日抗議行動を行った等主張するが、その具体的内容を認定するに足りる証拠はないばかりでなく、そもそも、原告・補助参加人組合間には労働条件変更については事前協議を経る旨の確認がなされていたことは前記認定のとおりであるところ、就業規則の変更は当然に労働条件の変更を伴うものであって、原告がこれについて事前協議を行わなかった以上、補助参加人組合が抗議を行うのは自然なことというべきである。

4  差別賃金の支払等について

(一) 原告は、平成三年八月一三日及び平成五年三月八日に、補助参加人の言い掛かりにより、解決金等の支払を強要され、家族手当のカットについても、原告が自発的に是正したかのごとく主張し、甲第一号証にはこれに沿う部分がある。

(二) しかしながら、右賃金等支払の際に作成された前掲乙第二四号証、同第二九号証の文面で、原告はこれらを補助参加人組合員差別である旨を認めていること、支払われた金額が相当の高額であること、当時、原告には大沢又は嶋澤、近藤といった労務対策顧問がいたこと、前掲乙第二八号証の存在、同乙第八号証及び証人水迫の証言を総合するとき、右各解決金等は、補助参加人組合の抗議に基づき、原告による補助参加人組合員に対する賃金又は一時金支給の上での差別を是正するために支払われ、家族手当のカットも、右一時金是正の際に併せて交渉されて決着を見たものと認めることができ、これに反する右証拠はいずれも信用することができず、原告の主張は採用できない。

5  誠光ユニオンの結成について

(一) 原告は、誠光ユニオンの結成についての関与を否定し、甲第一、第二号証、第四号証にはこれに沿う部分がある。

(二) しかしながら、原告の当時の労務対策顧問である嶋澤が誠光ユニオンの結成に関与していること(前掲丙第三ないし第五号証)、嶋澤、近藤及び誠光ユニオン執行委員長である久保の人間関係、原告が近藤らに支出していた賃金の額、近藤及び久保による新入従業員に対する誠光ユニオン加入工作、原告が誠光ユニオンとの労働協約締結後に同組合幹部を饗応していること、前掲甲第二号証において徳中は久保も参加した原告管理職の研修の費用を原告から出捐していた旨自認していること、徳中が作成したことについて当事者間に争いのない前掲丙第二号証の記載内容、同乙第三六号証、同第四一号証の記載内容に徴すると、右各証拠はいずれも不自然不合理であって到底信用することができず、むしろ、原告は、誠光ユニオンの結成及び育成について相当の援助をしていたものと認めるのが自然であるから、原告の右主張はこれを採用することはできない。

6  コロナクリエイトとの取引の停止について

(一) 原告は、平成六年五月九日及び一〇日、徳中が仕事上のミスでコロナクリエイトに呼び出された上、同社から今後の取引を断られた旨主張し、甲第一ない第四号証にはこれに沿う部分がある。

(二) しかしながら、徳中がコロナクリエイトに対して仕事を続けていく自信を失った旨述べた点については当事者間に争いがないこと、原告主張の仕事上のミスなるものの具体的内容は何ら明らかにされていないこと、継続企業を前提とした会計処理基準によれば当時いまだ債務超過の状態になっていなかったなど、原告は資金的にも逼迫していたとまではいい難いこと、前掲乙第一一号証及び証人水迫の証言に徴すると、むしろ、収益及び労使関係の悪化や退職者が相次いだことから、原告を経営する意欲を失った徳中が、自らコロナクリエイトに赴き、今後の取引を断ったと認めるのが自然であって、原告の主張に沿う右各証拠は信用することができず、原告の右主張はこれを採用することができない。

第二  本件破産申立、本件解雇及び本件団交拒否等の不当労働行為該当性について

一  本件破産申立について

1  被告及び補助参加人は、本件破産申立について、補助参加人組合を嫌悪する原告が、誠光ユニオンの強化を図るなどして補助参加人組合の弱体化を企図したものの果たせず、ついには企業活動を放擲することによって補助参加人組合を破壊しようとして行われた行為と判断されるとして、これが労組法七条一号及び三号に該当する不当労働行為である旨主張する。

2 そこで検討するに、破産原因を有する会社による破産申立は、原則として、労組法七条所定の不当労働行為に該当せず、労働委員会の救済命令の対象とならないものと解するのが相当である。

なんとなれば、憲法二二条一項は職業選択の自由を保障している以上、営業者は自らの営業を廃止する自由を有すること、破産法が、破産原因のある者について裁判所の関与のもとでその財産を解体・清算することを通じて債権者の公平と債務者の更生を図ることを目的とすることに照らすと、会社は、支払不能に陥り(破産法一二六条一項)、あるいは、債務超過の状態に立ち至った場合(同法一二七条一項)、その営業を廃止して全財産を清算する手段として、自ら破産申立をなす(同法一三二条一項)自由を有するのであって、破産原因を有する会社が、たまたま会社内に労働組合が結成されていて、同組合が破産申立に反対する故をもって、破産申立ができなくなり、あるいは、右申立を受理した裁判所が破産宣告を発令できなくなるとする実定法上の根拠はないこと、破産宣告によって当該破産者の総財産は解体・清算されることになり、その過程で従業員は労働組合員であるか否かを問わずその全員が解雇されることが予定されている(法は、企業の破産に際して、民法三〇六条二号、同法三〇八条、商法二九五条一項、破産法三九条により賃金債権を優先破産債権として取り扱う限度で労働者を保護しているものと解される。)こと、労組法七条所定の不当労働行為及び同法二七条以下の不当労働行為に対する救済命令発令手続は使用者の労働組合に対する不利益取扱い等を禁止することで労働組合の団結権及び団体行動権を保護し、ひいては対使用者の関係で労働者の権利を保護することを目的とするところ、右不当労働行為は、そもそも、企業の存続を当然の前提とするものであって、その前提が消滅する会社破産の場合にまで労働組合の団結権を保護する理由はないこと、以上に鑑みると、会社のなした破産申立及びこれに引き続く破産宣告によって、労働組合員を含む従業員が従前の職業を失うという不利益な取扱いを受けたとしても、原則として、これをもって労組法七条所定の不当労働行為ということはできないというべきである。

3 しかしながら、会社が自ら破産申立をするに際して、従前からの会社の労働組合に対する不当労働行為の継続、当該破産申立行為の背信性、破産原因の不存在なしい会社による破産原因の意図的な作出、非組合員を雇用した別企業による従前の営業の継続といった特段の事情により、右破産申立が労働組合の潰滅を唯一の目的としてなされたことが明らかである場合には、会社による右破産申立は、労組法七条一号所定の不当労働行為に該当するものと解するのが相当である。

なんとなれば、右のような場合、当該破産申立は、裁判手続に藉口してなされた労働組合の団結権侵害行為であるというほかなく、会社の営業廃止の自由を濫用するものである(民法一条一項、三項)から、このような場合にまで、労働委員会がその裁量に基づいて、右破産申立に対して何らかの救済命令を発令することを妨げる理由は存しないからである。

4(一)  そこで、以下において、本件破産申立について右特段の事情の有無を検討するに、前記認定のとおり、原告は、従前から、労務対策担当の顧問を雇って、反組合的な対策を講じてきたこと、補助参加人組合員を排除した親睦会である「翔の会」結成に関与したこと、労使間の事前協議を行わずに就業規則改定や家族手当カットを試みたこと、賃金又は賞与の支払について補助参加人組合員を差別したこと、第二組合である誠光ユニオンの結成に深く関与しその活動を援助したこと、誠光ユニオンを脱退した富永に突如配置転換を命じ、補助参加人組合執行委員である大河に配置転換を命じて業務を停止させながら、他方でその業務をより費用のかかる外注に回したこと、平成六年の春闘前に補助参加人組合の機先を制する形で「非常事態宣言」を出しながら、同日付けで誠光ユニオンの組合員三名を主任に昇進させたことなどから、補助参加人組合を嫌悪ないし敵視する姿勢が一貫して認められる。また、前記認定のとおり、原告代表者の徳中は、大手の取引先であるコロナクリエイトに自ら今後の取引の受注を断りながら、逆に、補助参加人組合に対しては、右コロナクリエイトから取引を断られた旨の虚偽の説明をしたこと、原告は、次回に予定された団体交渉の前日に、従業員に何ら説明なく本件破産申立をいわば抜打ち的に行ったこと、その後本件団交拒否等に見られるように補助参加人組合に対して誠実な対応をしなかったことから、本件破産申立には、補助参加人組合に対する関係で、著しく信義に悖る事情が認められる。

(二)  しかし、他方、本件破産申立当時、原告には債務超過の破産原因が存しており、社会保険料も滞納していたこと、コロナクリエイトとの取引の停止に至る事情や原告の従前からの使途不明金等を考慮しても、原告の債務超過額(一億〇二一〇万九二五六円)に照らすと、原告が意図的に破産原因を作出したとまでは認め難いこと、原告の営業活動は現在完全に停止しており、徳中も、原告とは業種、業態を全く異にする運搬業を個人で営んでいること、すなわち、徳中が原告の営業を他の企業で継続しているなどの事情は存しないこと、むしろ、本件破産申立に至る経緯に徴すると、徳中は、「非常事態宣言」後も、賃上げ交渉や大河の処遇を巡って補助参加人組合との間で緊張した労使関係が継続したばかりでなく、大河に対する配置転換命令について補助参加人が初めて被告に救済命令を申し立てたこと、その間、不景気から収益好転の見通しが立たなかったこと、補助参加人組合員以外の従業員の退職が相次いだこと、以上の事実が認められ、これらの事実に照らせば、原告代表者の徳中が、平成六年四月ころ、原告を経営する意欲を喪失し、大手取引先であるコロナクリエイトとの取引を解消した上で、本件破産申立に及んだものと認めるのが相当である。

(三) 以上を総合するとき、本件破産申立は、原告の補助参加人組合に対する敵対的な意図をも包含してなされたとはいいうるものの、いまだ補助参加人組合の潰滅を唯一の目的としてなされたものとまではいうことができず、したがって、労組法七条所定の不当労働行為には該当しないものといわざるを得ない。

5  故に、本件救済命令が、本件破産申立を不当労働行為として、原告に対し、主文第2項(1)で本件破産申立につき陳謝を命じたのは、理由がないので、違法として取消しを免れない。

6  なお、補助参加人は、原告は本件破産申立当時、債務超過の状態になかった旨主張し、乙第六四号証は継続企業を前提とした財務諸表によれば原告は当時債務超過の状態にはなかったとする記載がある。

しかしながら、破産法一二七条一項にいう債務超過とは、破産宣告当時において、債務者の負担する債務がその資産を上廻る客観的状態をいうものと解されるところ、同じく前掲乙第六四号証は、本件破産申立当時の非常貸借対照表によれば原告は一億〇二一〇万九二五六円の債務超過の状態にあった旨述べているから、結局、原告は本件破産宣告当時も破産法一二七条一項の債務超過の要件を充たしていたものと認められる。

したがって、補助参加人の右主張は採用できない。

二  本件解雇について

1  被告及び補助参加人は、本件解雇について、補助参加人組合との事前協議を経ずになされたことと、本件破産申立が不当労働行為に該当することから、これが労組法七条一号及び三号に該当する不当労働行為である旨主張する。

2 そこで検討するに、本件破産申立が不当労働行為に該当しないことは前記のとおりであることに加えて、破産原因のある会社が破産申立をした場合、当該会社は営業活動を停止し、従業員は全員が解雇されるに至ることが通常は予定されていることから、このような場合にまで、従業員の解雇に先だって事前協議の手続を踏まなければならない理由がないばかりでなく、本件解雇は、補助参加人組合員以外の原告の全従業員に対してなされているから補助参加人組合員を不利益に取り扱ったとする余地はなく、結局、労組法七条所定の不当労働行為を構成しないものといわざるを得ない。

3  故に、本件救済命令が、本件解雇が不当労働行為に該当するとして、原告に対し、主文第1項及び同第2項のうち(1)で本件解雇につき陳謝を命じたのは、理由がないので違法として取消しを免れない。

三  本件団交拒否等について

1  被告及び補助参加人は、本件団交拒否等について、原告がなんらの説明を行うことなく一方的に本件団交拒否を行い、また、本件団交不応諾にも正当な理由がないから、これらはいずれも労組法七条二号に該当する不当労働行為である旨主張する。

2 そこで検討するに、破産原因を有する会社が破産申立をした場合、会社は、団体交渉を拒否し又はこれに応じないことにつき正当な理由がない限り、労働組合に対する団体交渉応諾の義務を免れないものと解するのが相当である。

なんとなれば、破産原因を有する会社が破産申立をしたとしても、それによって法人格が直ちに消滅するものではなく、破産宣告後も、強制和議(破産法二九〇条以下)又は同意廃止(同法三四七条、三四八条)によって会社が存続することもあり得るから、会社は、依然として集団的労使関係から離脱することはないからである。

3 これを本件についてみるに、原告は、前日に補助参加人組合との団体交渉開催を約しておきながら、何ら理由を示さず一方的に本件団交拒否を行い、かつ、その後も補助参加人組合からの二度にわたる団体交渉開催の求めに対しても、何の理由もなく、一切これに応じなかったことは前記認定のとおりであって、原告においては、右団体交渉を拒否し又はこれに応じない正当な理由については何ら具体的な主張立証がない。

したがって、本件団交拒否等は、いずれも正当な理由によりなされたものとは到底認め難く、労組法七条二号に該当する不当労働行為であるといわざるを得ない。

4  故に、本件救済命令が、原告に対し、本件団交拒否等を不当労働行為に該当するとした判断の部分は正当である。

第三  本件救済命令のうちの係争部分につき、原告を名宛人としたことの違法性について

一  本件救済命令のうちの係争部分につき、原告を名宛人としたことの適法性については、当事者間に争いがあるので、以下、検討する。

ところで、労組法二七条所定の、「救済命令制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した法七条の規定の実効性を担保するために設けられたものであるところ、法が、右禁止規定の実効性を担保するために、使用者の右規定違反行為に対して労働委員会という行政機関による救済命令の方法を採用したのは、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を右命令によって直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るとともに、使用者の多様な不当労働行為に対してあらかじめその是正措置の内容を具体的に特定しておくことが困難かつ不適当であるため、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限をゆだねる趣旨に出たものと解される」(最判昭和五二年二月二三日民集三一巻一号九三頁)ところである。

したがって、不当労働行為をなした使用者が履行を求められる救済命令の内容は、労働委員会の裁量的判断によって多種多様にわたることになり、その結果、使用者に対し、その財産権の変動を求める内容を含む救済命令が発せられることも、法は当然に予想しているものというべきである。

しかしながら、救済命令の申立がなされた後に、使用者に対して破産宣告がなされて破産管財人が選任された場合、労働委員会は、使用者(破産者)に対し、その財産の管理処分権の行使を履行内容として求める救済命令に限っては、これを発することができなくなるものと解するのが相当である。

なんとなれば、破産宣告により、破産者が破産宣告時に有していた全財産は破産財団となり(破産法六条一項)、右破産財団の管理処分権は破産管財人に専属することになる(同法七条)結果、破産者はその財産権の管理処分権を喪失し、救済命令中その財産権の変動に関する部分の履行が法律上不可能となる一方、当該救済命令が確定した場合、破産者は過料による制裁(労組法二七条九項)又は刑事罰(同法二八条)を免れないことになるが、これは、破産者に不可能を強いながら制裁を加える結果を招来することになる一方、破産法七条によって破産管財人が取得するのは破産財団の管理処分権のみに過ぎず、破産者の人格はなお存続する以上、不当労働行為に該当する事実を履践した主体である使用者(破産者)に、右以外の、管理処分権の行使にわたらない救済命令の履行を求めることは、前記救済命令の趣旨に照らし、依然として労働委員会の裁量の範囲内というべきだからである。

二 これを本件についてみるに、本件団交拒否等が不当労働行為に該当することは前記説示のとおりであるが、本件救済命令は、本件団交拒否等について、原告に対し、その主文第2項において陳謝命令(いわゆるポスト・ノーティス)を義務づけているのみであって、右陳謝命令は、原告の財産の管理処分権の行使を求めるものではなく、むしろ、原告の人格にかかわる措置を求めるものである。

したがって、被告が発令した本件救済命令の主文第2項の(2)に関する部分は、その裁量を逸脱しておらず、適法なものというべきである。

なお、本件救済命令が、主文第2項の(1)において原告を名宛人としたこと自体は、右と同様に理由により違法ということはできないが、本件救済命が、本件解雇が不当労働行為に該当するとして、原告に対し、主文第2項の(1)に関する部分を命じたのは理由がないので、この点において違法として取消しを免れないことは前記説示のとおりである。

三  本件救済命令が、本件解雇が不当労働行為に該当するとして、原告に対し、主文第1項を命じた点も理由がないので、違法として取消しを免れないことは前記説示のとおりであるが、念のために本件救済命令の主文第1項につき、原告を名宛人としたことの適法性如何についても判断を加えておくと、本件救済命令の主文第1項は、破産者である原告に対しても、補助参加人組合員らを破産管財人により適法に解雇されるまでの期間、原告の従業員として扱うことを求めるものであるところ、右部分は破産者に対して破産財団の管理処分権の行使を履行内容として求めるものというべきであり、結局、原告に不可能を強いるものにほかならないから、本件救済命令の主文第1項は、これを破産管財人に対して発令することは格別、破産者たる原告に対して発令された限りで違法であることを免れないというべきである。

第四  結論

以上から、原告の請求は、本件救済命令のうち、主文第1項のうち原告を名宛人とする部分及び主文第2項のうち(1)に関する部分を取り消す限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九二条本文、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中路義彦 裁判官長久保尚善 裁判官井上泰人は、転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官中路義彦)

別紙命令書

東大阪市長田西六丁目四五番一号

申立人 総評全国一般大阪地連誠光社労働組合

代表者 執行委員長 水迫隆宏

大阪市北区大淀中二丁目九番一八号

被申立人 株式会社誠光社

代表者 代表取締役 徳中三春

大阪市北区西天満五丁目八番八号高橋ビル別館八階

被申立人 破産者株式会社誠光社破産管財人

松葉知幸

上記当事者間の平成六年(不)第三三号及び平成六年(不)第四三号併合事件について、当委員会は、平成七年一月二五日の公益委員会議において合議を行った結果、次のとおり命令する。

主文

1 被申立人株式会社誠光社及び同破産者株式会社誠光社破産管財人松葉知幸は、被申立人株式会社誠光社により、平成六年六月二〇日付けで申立人組合員に対してなされた解雇がなかったものとして取り扱い、同日以降、同年八月八日までの間、申立人組合員が受けるはずであった賃金相当額及びこれに年率五分を乗じた額を支払わなければならない。

2 被申立人株式会社誠光社は、申立人に対して下記の文書を速やかに手交しなければならない。

年 月 日

総評全国一般大阪地連誠光社労働組合

執行委員長 水迫隆宏殿

株式会社誠光社

代表取締役 徳中三春

当社が行った下記の行為は、大阪府地方労働委員会において、労働組合法第七条第一号、第二号及び第三号に該当する不当労働行為であると認められましたので陳謝致します。

(1) 貴組合との事前協議を経ることなく、平成六年五月二五日、大阪地方裁判所に対して破産の申立てを行い、かつ、同年六月二〇日をもって貴組合員全員を解雇したこと

(2) 平成六年六月一〇日、貴組合との団体交渉を一方的に拒否し、さらに貴組合からの同月二〇日付け及び同月二三日付け団体交渉要求に応じなかったこと

理由

第1 認定した事実

1 当事者等

(1) 被申立人株式会社誠光社(以下「会社」という)は、肩書地において写真製版を業とする、昭和四八年に設立された株式会社であり、後述のとおり、平成六年五月二五日、大阪地方裁判所(以下「大阪地裁」という)に破産の申立て(以下「本件破産申立て」という)を行い、同年八月四日、破産宣告の決定を受けて、本件審問終結時現在破産手続中である。

なお、本件破産申立当時の会社従業員は三八名であった。

(2) 被申立人破産者株式会社誠光社破産管財人松葉知幸は、平成六年八月四日、会社が大阪地裁によって破産宣告の決定を受けたことに伴い選任された破産管財人である。

(3) 申立人総評全国一般大阪地連誠光社労働組合(以下「組合」という)は、肩書地に事務所を置き、会社の従業員により組織されている労働組合で、その組合員は本件破産申立当時一七名である。

なお、会社には誠光ユニオンと称する別組合(以下「別組合」という)があり、その組合員は本件破産申立当時一三名である。

2 本件破産申立てに至る経緯について

(1) 会社設立以来初めての労働組合として、昭和五八年七月一〇日、会社従業員三五名中一六名により組合が結成された。

同月一九日、組合から会社に対して結成通知が行われるとともに、団体交渉(以下「団交」という)が開催され、労使間ルールに関する要求事項の一項目として「組合員の賃金、労働条件の変更をはじめ配転、解雇などについては、組合と事前協議し、双方納得の上で行う」との、要求がなされたのに対して、会社は了解する旨の回答を行い、組合との間で議事録確認書を取り交わした。

(2) 昭和六〇年一二月四日、会社レタッチ課課長らが発起人となり、従業員間の親睦を図るとして、「翔の会」が結成され、その結成会合には会社代表取締役徳中三春(以下「徳中社長」という)が同席した。同月六日、申立人組合員が、「翔の会」への加入を申し入れたところ、申立人組合員は加入できないと拒否された。

その後、組合が、組合機関紙や団交の場で、親睦の目的を掲げながら申立人組合員のみを排除し社内を分断する「翔の会」の結成は不当労働行為の疑いがあるとして追及し続けたところ、六一年七月、同会は解散するに至った。

(3) 平成元年一月、会社は、罰則規定の新設を含む就業規則の変更案を発表した。組合は、前記(1)記載の議事録確認書に基づく協議を求めたが、会社はこれに応じなかった。

同年二月二五日に至って、会社は、労働基準法に基づく就業規則変更の意見聴取を行うため、社内放送で全従業員を会社食堂に集めた。その場で、従業員代表を選出する選挙が実施され、会社職制と当時の組合委員長が立候補し、従業員による投票が行われた結果、組合委員長が従業員代表に選ばれた。

(4) 平成元年三月二二日、就業規則の変更を議題とする団交が開催され、交渉の結果、就業規則の変更は中止された。

また、「労使間の協定書、議事録などは今後とも遵守する。就業規則の内容(各条項)及び具体的実施については、組合と事前に協議し、双方納得の上で行う」との確認書を労使間で取り交わした。

(5) 平成三年四月四日以降の団交において、組合が、申立人組合員の賃金差別問題を指摘し是正を求めた結果、同年八月一三日、会社は、申立人組合員二四名について賃金差別があったことを認め、うち八名については、同年一〇月度から一律一一〇〇〇円を基本給に繰り入れるほか、残余の者についても適切な是正措置を構ずる旨を内容とする賃金是正協定が締結された。

(6) 平成三年一〇月頃、会社は、大手電機会社の労働組合書記長経験者である近藤幸男を労務部長(以下「近藤労務部長」という)として、また、別の電機会社の労働組合執行委員長経験者である久保芳信を従業員として採用した。

(7) 平成四年二月一四日、会社は、従業員に対して、就業規則及び賃金規程の変更案を発表した。これに対して、組合が、前記(4)記載の確認書に基づく事前協議を要求し交渉した結果、同年五月一八日、「今後とも労使間に協定書、確認書、議事録確認書等を誠実に履行し、過去の合意事項、慣行等を尊重する」との確認書が労使間で取り交され、就業規則、賃金規程の変更は中止された。

(8) 平成四年一一月一四日、会社は、従業員に対して、家族手当の一部カットを一方的に通告し、同月二五日支給の給料から実施した。

これに対して、組合が、家族手当の一部カットの一方的な通告は前記(7)記載の確認書に違反する行為であり、申立人組合員に対する重大な権利侵害であるとして、即時撤回を通告し交渉した結果、翌五年三月八日、会社は、①家族手当は、配偶者については従前どおり全員に支給し、子供については就労している場合を除き二二歳まで支給する、②組合に解決金として一五〇万円を支払う旨の回答を行い、解決をみた。

(9) 平成五年四月一一日、別組合が結成され、前記(6)記載の久保芳信が執行委員長(以下「久保委員長」という)となった。別組合は、翌一二日、会社に結成通知を行い、同月一九日には会社との間で賃上げ交渉を妥結した。

(10) 平成五年四月一五日、近藤労務部長は、富永裕治(以下「富永」という)ら同年入社の五名を、就業規則等について説明を行うとして、大阪市北区の「コミュニテイープラザ大阪」に集めた。そこで、近藤労務部長が、約一五分程度会社の就業規則等の説明を行った後、当初から同席していた久保委員長が、別組合の説明を行って別組合への加入申込書を配布した。近藤労務部長は、五名全員が加入申込書に記入したのを確認した後、五名を昼食に案内した。

(11) 平成五年八月一二日から一三日にかけ、滋賀県の旅館において、管理者研修会が開かれ、労務対策が議題とされた。同研修会には、近藤労務部長外三名の会社職制と、別組合の指導団体顧問である嶋沢順三(以下「嶋沢顧問」という)及び久保委員長が出席していた。

(12) 平成五年一一月一七日、富永は、久保委員長に対して、別組合を脱退したい旨伝えた。翌一八日朝、富永は、徳中社長から応接室に呼び出され、君はスキャナー課に向いていないので、工務課に配置転換する旨の通告を受けた。

このため、富永は組合に相談を行い、組合に加入することとなった。組合は、会社に対して、一方的な配置転換通告は労使間の確認書に違反するとして即刻撤回するよう申し入れた。その結果、同月二二日、この配置転換は撤回された。

また、会社は、翌六年四月九日、スキャナー課の前年入社三名中、富永を除く別組合の組合員二名のみを業務研修に参加させた。

(13) 平成六年二月二二日、会社は、全従業員に対して、賃上げ・一時金をゼロとすること、人員の削減、経費節減の強化等を行うことを内容とし、「不承知の方は残念ながら当社にお止まりいただくわけにはいきません」と併記した「非常事態宣言」を発表する一方で、同日付けで主任制度を新設して、別組合の組合員三名のみを主任に昇格させた。

(14) 平成六年二月二五日、組合は、①一律三万円の賃金引上げ、②経営改善策の提言、③別組合を解散させること、当面は別組合への経費援助を中止することなどを内容とする春闘要求を提出した。

この春闘要求に関する団交の中で、組合は、会社が、賃上げ・一時金ゼロ等の「非常事態宣言」を打ち出す一方で、別途、株式会社南州プロセス(以下「南州プロセス」という)に対する不明朗な金銭関係を生じさせていることは矛盾ではないかと指摘し、南州プロセスと会社の関係を問いただした。

なお、南州プロセスは、元年一月に会社と同一業務を営む株式会社として設立されたもので、組合が不明朗な点として指摘した内容は、①南州プロセスに仕事を分け、経理を代行しているのではないか、②六年三月一日に南州プロセスの資本金が増資されていることから、会社が出資しているのではないか等の疑義であった。

これに対して、会社は、当初は「徳中社長個人の問題で、南州プロセスと特別な関係はない」と回答していたが、同年五年一三日の団交に至り、徳中社長は、「南州プロセスの印鑑を預かっており、出金する時には一々報告に来たし、許可している」と回答し、南州プロセスの全権を握ってきたことを認めた。

なお、会社には、これとは別に昭和五九年二月設立の子会社、株式会社エースカラーがあり、主要な外注先としていた。

(15) 平成六年四月一四日の団交において、組合は、会社に対し、嶋沢顧問に二〇万円を送金した会社の出金伝票及び振替伝票を提示して、このような支出は、従業員の賃上原資もないとする「非常事態宣言」を出す状況と矛盾するものではないかと抗議し、会社の考えを問いただしたが、会社はこれに答えなかった。

3 本件破産申立て及び申立人組合員の解雇について

(1) 平成六年五月九日及び一〇日の二度にわたり、徳中社長は、最大の受注先である株式会社コロナクリエイト(以下「コロナクリエイト」という)を訪れ、「事業継続が難しくなった。仕事を続けていく自信がない」と述べて、今後の取引を断った。このため、コロナクリエイトは、会社に対する新規発注を取りやめ、既に発注済みの仕事も引き上げて別の下請会社に発注した。

(2) 平成六年五月一三日の団交で、組合が、前記(1)記載の発注取りやめについて説明を求めたところ、徳中社長は、会社がコロナクリエイトに納品した仕事がうまくできていなかったため、コロナクリエイトから今後の取引を断られた旨回答した。

これに対し、組合が、今後の対応策についての団交をできるだけ早い機会に開催するよう求めたところ、徳中社長は、同月二五日までの間は団交に応じる時間が一切ない旨回答した。

(3) 平成六年五月二五日、会社は、大阪地裁に対して、本件破産申立てを行った。この申立書には、破産申立てを行った理由として、「会社は、①平成五年七月期には、年商六億四六〇〇万円(一七%減)まで落ち込んだ結果、約一三五〇万円の赤字を計上するに至り、今日まで右赤字を解消することができないままである。②会社の負債総額二億三〇〇〇万円に対し、資産総額は約八二三〇万円であって債務超過である。③弁済期の到来した債務を一般的に弁済することができない支払不能の状態にある」と記載されていた。

(4) 平成六年五月二六日朝、徳中社長は、突然、従業員全員を会社食堂に招集し、「昨二五日の夕方、裁判所に破産を申し立てた。すべては私の責任であり、申し訳ない」と説明した。

組合は、直ちに団交開催を申し入れ、同日夕方、団交が開かれた。そこで徳中社長は、本件破産申立てを行った理由として「五月一〇日にコロナクリエイトから取引を停止された。この取引停止の噂が業界に広まり、他の得意先からの仕事もなくなり、業務を続けていく見込みがなくなったので止むなく破産を申し立てた」と説明した。

(5) 平成六年五月二七日、組合は、当委員会に対して、本件破産申立てに関する不当労働行為救済申立て(平成六年(不)第三三号事件)を行った。

(6) 平成六年六月一日、組合はコロナクリエイトに出向き、会社への発注取りやめの理由について問い合わせたところ、同社山本取締役から、徳中社長が、事業継続が難しい、仕事をこなす自信がないと言うので取引を停止したのであって、コロナクリエイトの方から仕事を断ってはいない旨の回答を得た。

そこで、組合は、団交の場で「本件破産申立てを取り下げ、正常運営せよ」と申入れたが、徳中社長は、仕事を断られ、やっていけないため破産を申し立てたので、いまさら事業をやっていくことはできない旨の説明を続けた。

(7) 平成六年六月三日及び七日、大阪地裁において審尋が開かれ、組合は、「本件破産申立ては、組合つぶしを唯一の目的にした不当なものである。決算書の数字そのものが不自然であり信用できず、破産の要件である債務超過と支払不能の事実はない」と主張した。

大阪地裁は、公認会計士に依頼して会社の鑑定をすることとし、同月一〇日、鑑定人を決定した。

(8) 平成六年六月一〇日、徳中社長は、同日の組合との団交開催を前日の団交で約束しておきながら、これを一方的に破棄して、以後所在不明となった。

(9) 会社は、平成六年六月一五日付けの内容証明郵便で、全従業員に対して、本件破産申立てを行ったことを理由に、同月二〇日をもって解雇する(以下「本件解雇」という)旨の解雇通知を郵送した。

(10) 平成六年七月一四日、組合は、当委員会に対して、本件解雇に関する不当労働行為救済申立て(平成六年(不)第四三号事件)を行った。

(11) 組合は、会社の破産申立代理人に対して、徳中社長は姿をくらまして、約束していた団交を拒否しておきながら、労使間の確認書に違反した一方的な解雇を行うことは問題であり、直ちに撤回すべきである旨申し入れるとともに、平成六年六月二〇日付け及び同月二三日付け文書で、会社に団交を申し入れたが、会社はこれに応じなかった。

なお、本件審問終結時現在、徳中社長は依然として所在不明であり、会社は組合の団交開催要求に一切応じていない。

(12) 平成六年七月一五日、前記(7)記載の鑑定人による鑑定書が大阪地裁に提出されたが、その内容は概ね次のとおりであった。

① 継続企業を前提とした企業会計処理基準によって作成した財務諸表では、会社は六年五月二五日現在、未だ債務超過の状態には至っていない。

② 通常の営業資金の資金状況を示す経常収支でみるかぎりは、経常損益が大幅な赤字を出している六年五月二五日の進行期においても、経常収入超過の状態にあり、資金的にみればそれほど逼迫した状況にあるとは判断できない。ただし、企業規模からすれば多額な設備投資による設備関係支払いの資金繰りへの影響は、大きなものであることも確かである。

③ 使途不明金が、五年七月期以降多額に発生している。

④ 会社の関連会社である南州プロセスは六年六月一三日に破産宣告を受け、また、同じく株式会社エースカラーは既に任意整理が完了している模様である。

(13) 平成六年八月四日、大阪地裁は、会社の破産宣告の決定を行い、破産管財人として弁護士松葉知幸(以下「管財人」という)を選任した。同月八日、管財人は、申立人組合員一七名に対して、同日付けで解雇する旨の通知を行った。

4 請求する救済内容

申立人が請求する救済内容の要旨は、次のとおりである。

(1) 申立人組合員一七名に対する平成六年六月二〇日付け解雇を撤回し、同人らが受け取るべき毎月の賃金を支払うこと

(2) 平成六年五月二五日付け破産申立て及び同年六月二〇日付け解雇に関する団交に誠意をもって応じること

(3) 組合との事前協議を経ることなく、平成六年五月二五日、大阪地裁に対して破産申立てを行ったことが不当労働行為であったことを認め、陳謝文を手交すること

(4) 組合との事前協議を経ることなく、平成六年六月二〇日付け解雇を行ったこと並びに破産申立て及び解雇撤回に関する団交を拒否したことが不当労働行為であったことを認め、陳謝文を手交するとともに、会社出入口及び食堂に掲示すること

第2 判断

1 当事者の主張要旨

(1) 組合は、次のとおり主張する。

会社は、組合員の賃金、労働条件の変更をはじめ配転、解雇などについては、組合と事前協議し、双方納得の上で行う旨の労使間の確認があるにもかかわらず、何らの事前協議を行わないまま、平成六年五月二五日、大阪地裁に対し破産申立てを行った上、これを理由に申立人組合員全員を同年六月二〇日付けで解雇し、さらに、同月二〇日以降組合と本件破産申立て及び本件解雇に関する団交を拒否し続けていることは、組合を嫌悪しその破壊を意図した不当労働行為である。

(2) 会社は、当委員会の調査及び審問に終始出頭しなかったが、平成六年(不)第三三号事件の答弁書を提出し、次のとおり主張する。

過去に組合破壊攻撃を行った事実はなく、本件破産申立てを行った理由は、業況の悪化、従業員の士気低下の下、取引先からの注文減により支払資金が不足する状況になったこと、また、破産申立時の負債総額約二億三〇〇〇万円に対し、回収可能な集金分約六二〇〇万円、什器備品、車両等その他資産六五〇万円など資産総額は約八二三〇万円で、約一億四七七〇万円の債務超過に至ったことからであり、組合の破壊を意図した不当労働行為には当らない。

(3) 管財人は、平成六年八月二四日、当事者追加されて以後、当委員会の調査及び審問に出頭し、次のとおり主張する。

平成六年(不)第三三号事件の申立てについては、平成六年八月四日、大阪地裁が会社の破産宣告を決定したことから、組合の救済利益は失われていると考えている。

また、平成六年(不)第四三号事件の申立てについては、当職が同月八日付けで申立人組合員に対し解雇を行い、同人らはこれに応じている。

したがって、いずれの事件についても、棄却するとの命令を求める。

2 不当労働行為の成否

(1) 本件不当労働行為救済申立ては、会社の破産申立てが基になっているので、会社が破産申立てを行った理由についてまず検討する。

会社は、支払資金の不足及び債務超過を理由に本件破産申立てを行ったと主張している。しかしながら、これらの理由については、前記第1.3(12)認定のとおり、大阪地裁選任の鑑定人により、会社は、①継続企業を前提とした企業会計処理基準によって作成した財務諸表では、破産申立時現在、債務超過の状態には至っていない、②通常の営業資金の資金状況を示す経常収支でみるかぎりは、経常損益が大幅な赤字を出している破産申立時においても、経常収入超過の状態にあり、資金的に逼迫した状況にない旨の鑑定結果が出されている。この鑑定結果から、会社は、差し迫って支払資金に事欠くことはなく当面の事業継続が必ずしも不可能ではなかったことが窺える。

このような会社の状況のもと、徳中社長は、前記第1.3(1)及び(4)認定のとおり、会社の主要な取引先であるコロナクリエイトから取引を停止され、業務を続けていく見込みがなくなったため破産を申し立てた旨全従業員に対し説明する一方で、自らコロナクリエイトに出向き、仕事を続けて行く自信がない旨述べ仕事を断ったことが認められる。これらの行為から、徳中社長は、一般的に企業経営者に求められる企業継続の努力や従業員に対する配慮を尽くしたとは言えず、むしろ、自ら積極的に企業閉鎖をしようとしたものと判断せざるを得ない。

(2) 会社が破産申立てを行うことは、申立人組合員の失職につながる重要問題であるから、解雇について事前に協議する旨の確認がある場合、その協議対象事項になることは当然と考えられるにもかかわらず、前記第1.3(4)認定のとおり、会社が、組合と一切の事前協議を行わなかったことは、組合との議事録確認に違反する行為である。

(3) 一方、会社と組合との関係をみると、前記第1.2認定のとおり、昭和六〇年一二月に社内親睦会「翔の会」が申立人組合員を排除して結成されて以降、①平成三年八月、会社は、申立人組合員二四名(当時)に対する賃金差別を認め、賃金是正を行ったこと、②会社は、組合と事前協議を行わず、元年一月に罰則規定新設を含む就業規則の変更案を発表し、また、四年一一月には家族手当の一部カットを一方的に実施したこと、③五年四月に別組合が結成され、近藤労務部長らによる別組合加入工作が行われたこと、④同年八月、別組合の指導団体嶋沢顧問及び別組合久保委員長と会社職制によって、労務対策を議題とした研修会が開催されたこと、⑤六年二月、会社は、非常事態宣言を発表する一方で、主任制度を新設して別組合の組合員のみを昇進させたことなどが認められ、会社が、組合を嫌悪し続けていたことは明らかである。

(4) 以上を総合すると、会社による本件破産申立ては、組合を嫌悪する会社が、別組合の強化を図るなどして組合弱体化を企図したものの果たせず、ついには企業活動を放擲することによって組合を破壊しようとして行われた行為と判断され、かかる行為は、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為である。

(5) 次に、平成六年六月二〇日付けで、会社が全従業員に対して行った解雇についてみると、組合員の解雇については事前に協議する旨の議事録確認に違反する行為であることはもちろんのこと、前記第1.3(9)認定のとおり、本件解雇は本件破産申立てを理由としてなされたことから、前記判断(4)のとおり、本件破産申立てが不当労働行為である以上、本件解雇も労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為である。

(6) さらに、本件破産申立て及び本件解雇に関する団交についてみると、前記第1.3(8)及び(11)認定のとおり、会社は、平成六年六月九日の団交において、翌一〇日の団交開催を組合と約束しておきながら、何らの説明を行うことなく一方的にこれを破棄し、また、組合からの同月二〇日付け及び同月二三日付け文書による団交申入れについても正当な理由なく応じなかったことが認められる。

したがって、同年六月一〇日、会社が組合との団交を拒否し、組合からの同月二〇日付け及び同月二三日付けの団交要求に応じなかったことは、労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為である。

3 救済方法

賃金相当額の支払いについては、大阪地裁の破産宣告に基づき、管財人が申立人組合員に対して平成六年八月八日付けの解雇通知を行っていることから、主文1の救済をもって相当と考える。

本件破産申立て及び本件解雇に関する団交については、同年八月四日に破産宣告の決定がなされ、かつその後、同月八日付けで管財人による解雇がなされていることから、主文2の救済をもって相当と考える。

また、組合は、陳謝文の掲示をも求めるが、主文2をもって足りると考える。

以上の事実認定及び判断に基づき、当委員会は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条により、主文のとおり命令する。

平成七年二月二三日

大阪府地方労働委員会

会長 由良数馬

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